髪の毛の話

 髪の毛の話です.

 もう歳も歳なので,年々薄くなっており,妻などは私の前髪の薄く見える時を見計らって,「薄くなった,薄くなった」と囃し立てるのです.確かに毛根は弱々しく,重力に負けてだらんと垂れ下がって,ボリュームがますます小さく見えてくる.

贔屓の床屋に相談すると,

「自然乾燥などはもってのほかです.必ずドライヤーで乾かしてください.それから整髪剤で毛根からこう立ち上げるように,整えると良いでしょう.」

などと,レクチャーを受けていたのです.

だがしかし,これは,日本にいたときの話で・・・.

 ヨーロッパに来て,ウィーンからのフィレンツェで,もう18日目でありますけれども,何日目かになんかあれ?っと気がつきました.なんか毛髪が元気に立っております.特に前髪がふっくら立ち上がってボリューム感が出て,ほとんど隙間が気にならなくなりました.なぜだろう?気候が乾燥しているからか,水が硬質だからか,シャンプーに何か入っているのか?これはイタリアのちょいワルおやじに向かっているのではないか?と,思いませんけども,ま,悪い気分ではないです.日本に帰ったら急に老け込むかもしれません.

 フィレンツェの最初の1週間は上々でありました.受け入れ教員で共同研究者のパオラとその旦那さん(も研究者)のジェイソンに私のやりたいことをアピールする時間がゆったりあって,なんか大変評価が高かったです.特にジェイソンがやっているモデリングに天然からの制約を与えるという話に花が咲きました.また,先週末は祝日で,どうもイタリアの終戦記念日的な日だったらしいです.パオラとジェイソンの海岸の別荘に泊めてもらいました.斜塔で有名なピサという街から南へ30−40分ほどの美しいビーチでした.そこから車でさらに南へ30分行ったところに,四万十帯にそっくりなメランジュがあります.ここへパオラ,サミュエレと新しいポスドクのキアラと4人で巡検に行きました.鉱物脈がわんさかで,玄武岩との境界に玄武岩側にだけガッツリ引張クラックができている興味深い産状を見るに,ここでもお気楽に構造解析できちゃうなーと.どうもイタリアでは誰も着手していない場所らしく,アペニン山脈の背弧側のテクトニクスの議論に一石を投じることができるようです.流体包有物やカルサイトの温度ー同位体測定もやってみたい気分です.

 で,今日,大学に行くとジェイソンが部屋におり,このイタリアのメランジュの産状を見せて,これをモデリングで再現しようとすると基質の時間発展が必要だよねーなどと議論しておりました.とにかく脈の方位を測って古応力方位を出すのはすぐだから,簡単な卒論みたいなネタだよ,とか話していたら,そこに若い女子学生が入ってきて,パオラの研究室に配属希望の卒論生の研究室訪問でした.そしたらパオラとジェイソンが,

「実はいいネタがあってね・・・」

みたいな感じで,たった今私が話していた古応力解析の話を紹介してました.私にはまだアペニン山脈の背弧のテクトニクスの議論が把握できていないのですが,パオラにはなかなかに仮説があるらしことが感じられました.イタリア語で喋っていたのでよく分からなかったのですが.なかなか面白くなってきました.