また新しい研究ネタ思いついちゃった

 11月第1週は、論文を読んでおりました。だらだらと。

 いやー、だらだら読んでるなーと思っていたのですが、またしてもハッと閃いてしまいました。うーん、これだからね、研究は面白いです。

 断層ってのは、表面がざらざらしております。断層面で滑ってますから、擦り傷が付いてるんですね。この擦り傷のざらざらを調べようってんですよ。変態ですね。

 先行研究はすでにあって、私たちも同じような結論に達しました。私たちの場合はちょっと話にひねりが加わっております。

 ちょっとここからマニアックな話。地震の規模の一つにストレスドロップ(応力降下)という量があります。これは断層にかかっている滑りに抵抗する力が地震後に解放されて小さくなったときの減少量のことです。同じ断層でも大きな地震のときや小さな地震の時があるでしょう。でもどんなサイズの地震でもストレスドロップは一様である、というのが多くの地震学研究者の考え方のようです。

 ところが、頭の良い人が計算すると、断層面のざらざらから推定される面上の平均的なストレスドロップは小さな地震ほど大きくなって、大きな地震ほど小さくなるというのです。何を言っているのか?ちょっとわからないと思いますが、とりあえず、これまでの一般的に受け入れられていることを覆す主張です。ストレスドロップは破壊領域のサイズに関わらず一様、ではない、という。

 一般的なストレスドロップはまぁ10-20MPa程度でしょうか?アスペリティーという滑りの大きな領域で40MPaほど行くのでしょうか?ところが、上記の新主張によると、小さな地震のストレスドロップは100MPaにも200MPaにも達することが可能というのです。私たちの結果もそれと同じ結論に達します。これは一般的には非常識な値と言われています。

 ここではっと、昔カルサイトツインの差応力計というのを使って過去の最大差応力を推定したことを思い出しました。その結果は300MPaくらいありました。断層面上のすべりに抵抗しようとする力はこの300MPaの半分が最大ですので、150MPaが解放する可能性があるストレスドロップです。このカルサイトツインの結果を発表した時に、地震学者の先生方から、値が大きすぎるねー、と失笑を買ったものです。だが、今回読んだ論文は、そういう値もありうるということを示唆しています。地震学の偉い先生が失笑するようなことだからといって、その主張を信用してはいけません。

 そっから、あー!スロー地震のスケーリングを議論するための断層滑りモデルにもつながるぞー!となって、ずらずらずらーとアイデアが繋がっていく週末でありました。楽しかったです。

 

 はい、専門でない方にも少しでも雰囲気が伝わるとうれしいです。専門の方にはちょっと物足りないかもしれないですが、興味のある方はお会いした時に議論いたしましょう。

 

ドイツの研究者事情

 ドイツ生活も早、7ヶ月が過ぎようとしています。あと5ヶ月。やばいです。実験うまくいってない。

 こないだリジェクト食らった論文は放置状態で、次の論文に取り掛かっておりましたが、それも第一稿が完成し、共著者にコメントをもらっているところです。英文校正出して来月頭には投稿しようと思います。

 さて、今回はドイツの研究者事情について、お話ししましょう。どんだけ不安定なんだ、といった状況です。

 ドイツでは博士を取った後、ポスドクでしばらく食いつなぐのがほぼ一般的です。これは、日本でも同じなのですが、ドイツでは基本一契約が二年単位。一回目、二回目と二年ごとに数えられるほど安定して二年単位みたいです。中にはフルポスドクの50%の給料で18ヶ月契約なんていう不規則な場合もあります。下手すると10%の給料なんてのもあるみたい。保険を継続することが手続き上重要とのことです。

 いずれは安定したパーマネントポジションを狙っているのですが、これが非常に少ない。日本では最小単位の教育グループで、教授3、准教授2、講師1、助教1などで構成され、講師以上はパーマネント、助教は五年の任期付きなどが多いと思います。助教が任期付きというのはある意味形だけで、五年以内に講師にあげてパーマネント化する前提で、研究以外の雑用(教育、大学運営)に従事してもらいます。これが、ドイツですと、教授1、以下すべて任期付きの科学研究者。彼らには教育デューティーあり、さらに組織運営会議の構成員であることが多いようです。すなわち日本で言うところの准教授以下はすべて任期付きということです。教授は一人。うーん、パーマネントは狭き門である。なので、50歳間際でも任期付きの科学研究者なんてザラです。

 さらに、最近ではドイツでも学長とかディレクターの権限が増大し、かつての学科や学部による民主的な話し合いの場が瓦解しているそうです。ポジションはトップの意向でいかようにも他の学部や学科に付け替えられるという。恐ろしいことです。例えば、組織のトップがよりお金の取りやすい海洋資源および探査技術の工学系へ大学や研究所の構成を変えようと思えば変えられます。それはそれでよいことかもしれませんが、そのために優秀な理学系の研究者が切られることが実際に起こっております。

 それは、さぞかし大変だろうと日本人的には思うのですが、意外とさっぱりしている感じです。たくましい。ひとつには、日本よりも失業保険が充実していることが大きな助けになっているようです。ドイツでは失業保険が1年間フルでもらえて、2年後も80%、3年後に50%と結構長々と保証されているとのことです。もう一つは、多くのポジションが流動的なので、次のポジションも見つけやすいようです。ただし、自分の思いの通りにならないことばかりですし、いつまでも不安定であることには違いありません。そのような中で、何か一つのことを深くしていこうとする壮年期を逃すと、もう一流にはなれない。新しい異なる分野でこれまでのことを生かそうとし続けるよっぽどのアイデアが必要です。運もあるし、能力も必要ですね。年をとればとるほど難しくなる。

 若いうちにこの競争に打ち勝たなければ、なかなか芽は出ないでしょう。先日ノーベル賞を取られた日本人の言葉が思いやられます。彼がノーベル賞ネタにたどり着いたのは40代前半だったでしょうか?それまであまり論文も書かなかったみたいですし。だがしかし、そのために限りある予算を潤沢に振る舞う余裕は今やどこにもないのでしょう。

うわー、論文リジェクト

 こちらは日に日に日照時間が減っております。緯度が高いため日照時間の減少がすごい早い。体感できるほどです。気がつけば短くなったなー、じゃなくて、うわーどんどん短くなるー!といった風に感じられます。最高気温は10度程度、天気もカラッと晴れることは稀で、ほぼ曇り、たまににわか雨。おとなしく部屋にこもる他ないです。

 といった感じの秋の早朝、朝のメールチェックをしていると、6月に投稿していた論文のDecision letterが来てました。うわっ!と光速でチェックすると、reject and recomend to resubmissionでした。今回はリジェクトだけど再投稿をお勧めする、とのこと。レビューのコメントは非常に誠実で的を得ており、懸案だったことがズバズバ指摘されております。全くその通り、よく読んでくれている、ありがとう。これが正鵠を射すぎておりまして、弱った精神にぶすぶすよく刺さります。いや、すいません、これから謙虚に生きていきます。

 ということで、これに対応する気力がしばらく出ません。しばらく放置させていただきます。一筋縄ではいかないわ。

 今は実験再開待ちの間で、別の論文を書いております。これは、データの赴くまま、素直に謙虚に中学生のようなシンプルな英語で、コツコツと書いていこうと思います。で、大丈夫かな?

 旅に出たいなー。と思っていたわけではないのですが、月末の週末にミュンヘンでミネラルフェアをやるというので、それに行こうと思っております。鉱物などの直販イベントです。珍しい岩石が買えると思います。こないだ巡検で印象的だったのが岩塩鉱山でして、ドイツの岩塩が欲しいと思っております。単に真っ白い石っていうわけではなく、成分の違いで様々な模様が出ています。その模様は隆起の間の綺麗な水平圧縮変形だったりします。そういう岩塩があったら欲しいです。あるかなー。

ドイツでの恥ずかしい失敗(その1)

 なんか仕事の話ばかりなので、ちょっとドイツの生活を感じられる話を少ししようと思います。題してドイツでの恥ずかしい失敗です。些細なことですけども。

 ドイツでは、さよならの意味で

「チューッス」

と言います。

多分「Cheers」の意味のドイツ語だと思います。

例えば道で別れるとき、電話を切るとき、レストランで出るとき、レジで支払い終わって離れるとき、様々な場面で使われます。

ですが、どうもこの響き、日本人的にはあのピンクのベストを着たコメディアンの春日が、挨拶に片手を上げていう「ちゅーっす!」を思い浮かべますよね。そうですよね。どちらかというと、こんにちはに近い響きです。

あるとき、レジで並んで待っており、ついに自分の番が来たと思った瞬間、レジ打ちのお姉ちゃんが

「ちゅーっす!」

というので思わず

「ちゅーっす!」

と答えてしまいました。

あ、あほだー!!!

お姉ちゃんは私の前の人にじゃあねと言って、つられて私もじゃあねというという、おかしなおじさんじゃないですか?!前の人は私の知り合いではない。

住み始めの頃、もう半年前か、こんな失敗を4回ぐらいしたと思います。

私は若者に言いたい!こんな失敗をして私はおっさんの今でも成長していますよ。元気出た?

またしてもー!!!

 またしもて実験失敗。今度はサンプルと周辺の水を遮断しているジャケットに小さな穴が開いたのか、周辺の水がサンプル内へ漏れるという現象が起こってしまいました。もうやだよこの実験。

 今日1ヶ月ぶりくらいに受け入れ教員の一人であるミヒャエルと会えました。私が日本からドイツに戻った直後、ミヒャエルはドイツの地質学会に参加してまして、今月に入ってから私が実験で大学にこもっていたので、なかなか研究所に来れず会えずじまいでした。昼にミヒェエルと、実験の失敗の件について議論しまして、もう少し厚いジャケットを使用することにしました。早速実験の技術サポートをしてくれているラルフが、より厚めのジャケットを注文してくれました。すごい助かる。

 ミヒャエルは学会前の地質巡検に参加してすごいよかったと言ってました。アルプスの山の中、2500mほどの標高の場所だったそうです。実はミヒャエルが修士論文でやってたところらしいのですが、まったく別の視点でテクトニクスを議論しており、非常に活発な議論ができたようでした。いいですね、巡検

 で今は、やる気の出ないといっていた、高校生向けの啓蒙書を書いております。あんまり良い結果の研究ではないので面白おかしくするために、地球とは、研究とはこんなもんであるという哲学めいたことを最後に書いて、高校生向けのエールとしたいと思っております。今日明日中には終わらせたい。

 で、途中で止まっている論文執筆をやりつつ、実験再開を待ちたいと思います。