ドイツの研究者事情

 ドイツ生活も早、7ヶ月が過ぎようとしています。あと5ヶ月。やばいです。実験うまくいってない。

 こないだリジェクト食らった論文は放置状態で、次の論文に取り掛かっておりましたが、それも第一稿が完成し、共著者にコメントをもらっているところです。英文校正出して来月頭には投稿しようと思います。

 さて、今回はドイツの研究者事情について、お話ししましょう。どんだけ不安定なんだ、といった状況です。

 ドイツでは博士を取った後、ポスドクでしばらく食いつなぐのがほぼ一般的です。これは、日本でも同じなのですが、ドイツでは基本一契約が二年単位。一回目、二回目と二年ごとに数えられるほど安定して二年単位みたいです。中にはフルポスドクの50%の給料で18ヶ月契約なんていう不規則な場合もあります。下手すると10%の給料なんてのもあるみたい。保険を継続することが手続き上重要とのことです。

 いずれは安定したパーマネントポジションを狙っているのですが、これが非常に少ない。日本では最小単位の教育グループで、教授3、准教授2、講師1、助教1などで構成され、講師以上はパーマネント、助教は五年の任期付きなどが多いと思います。助教が任期付きというのはある意味形だけで、五年以内に講師にあげてパーマネント化する前提で、研究以外の雑用(教育、大学運営)に従事してもらいます。これが、ドイツですと、教授1、以下すべて任期付きの科学研究者。彼らには教育デューティーあり、さらに組織運営会議の構成員であることが多いようです。すなわち日本で言うところの准教授以下はすべて任期付きということです。教授は一人。うーん、パーマネントは狭き門である。なので、50歳間際でも任期付きの科学研究者なんてザラです。

 さらに、最近ではドイツでも学長とかディレクターの権限が増大し、かつての学科や学部による民主的な話し合いの場が瓦解しているそうです。ポジションはトップの意向でいかようにも他の学部や学科に付け替えられるという。恐ろしいことです。例えば、組織のトップがよりお金の取りやすい海洋資源および探査技術の工学系へ大学や研究所の構成を変えようと思えば変えられます。それはそれでよいことかもしれませんが、そのために優秀な理学系の研究者が切られることが実際に起こっております。

 それは、さぞかし大変だろうと日本人的には思うのですが、意外とさっぱりしている感じです。たくましい。ひとつには、日本よりも失業保険が充実していることが大きな助けになっているようです。ドイツでは失業保険が1年間フルでもらえて、2年後も80%、3年後に50%と結構長々と保証されているとのことです。もう一つは、多くのポジションが流動的なので、次のポジションも見つけやすいようです。ただし、自分の思いの通りにならないことばかりですし、いつまでも不安定であることには違いありません。そのような中で、何か一つのことを深くしていこうとする壮年期を逃すと、もう一流にはなれない。新しい異なる分野でこれまでのことを生かそうとし続けるよっぽどのアイデアが必要です。運もあるし、能力も必要ですね。年をとればとるほど難しくなる。

 若いうちにこの競争に打ち勝たなければ、なかなか芽は出ないでしょう。先日ノーベル賞を取られた日本人の言葉が思いやられます。彼がノーベル賞ネタにたどり着いたのは40代前半だったでしょうか?それまであまり論文も書かなかったみたいですし。だがしかし、そのために限りある予算を潤沢に振る舞う余裕は今やどこにもないのでしょう。

うわー、論文リジェクト

 こちらは日に日に日照時間が減っております。緯度が高いため日照時間の減少がすごい早い。体感できるほどです。気がつけば短くなったなー、じゃなくて、うわーどんどん短くなるー!といった風に感じられます。最高気温は10度程度、天気もカラッと晴れることは稀で、ほぼ曇り、たまににわか雨。おとなしく部屋にこもる他ないです。

 といった感じの秋の早朝、朝のメールチェックをしていると、6月に投稿していた論文のDecision letterが来てました。うわっ!と光速でチェックすると、reject and recomend to resubmissionでした。今回はリジェクトだけど再投稿をお勧めする、とのこと。レビューのコメントは非常に誠実で的を得ており、懸案だったことがズバズバ指摘されております。全くその通り、よく読んでくれている、ありがとう。これが正鵠を射すぎておりまして、弱った精神にぶすぶすよく刺さります。いや、すいません、これから謙虚に生きていきます。

 ということで、これに対応する気力がしばらく出ません。しばらく放置させていただきます。一筋縄ではいかないわ。

 今は実験再開待ちの間で、別の論文を書いております。これは、データの赴くまま、素直に謙虚に中学生のようなシンプルな英語で、コツコツと書いていこうと思います。で、大丈夫かな?

 旅に出たいなー。と思っていたわけではないのですが、月末の週末にミュンヘンでミネラルフェアをやるというので、それに行こうと思っております。鉱物などの直販イベントです。珍しい岩石が買えると思います。こないだ巡検で印象的だったのが岩塩鉱山でして、ドイツの岩塩が欲しいと思っております。単に真っ白い石っていうわけではなく、成分の違いで様々な模様が出ています。その模様は隆起の間の綺麗な水平圧縮変形だったりします。そういう岩塩があったら欲しいです。あるかなー。

ドイツでの恥ずかしい失敗(その1)

 なんか仕事の話ばかりなので、ちょっとドイツの生活を感じられる話を少ししようと思います。題してドイツでの恥ずかしい失敗です。些細なことですけども。

 ドイツでは、さよならの意味で

「チューッス」

と言います。

多分「Cheers」の意味のドイツ語だと思います。

例えば道で別れるとき、電話を切るとき、レストランで出るとき、レジで支払い終わって離れるとき、様々な場面で使われます。

ですが、どうもこの響き、日本人的にはあのピンクのベストを着たコメディアンの春日が、挨拶に片手を上げていう「ちゅーっす!」を思い浮かべますよね。そうですよね。どちらかというと、こんにちはに近い響きです。

あるとき、レジで並んで待っており、ついに自分の番が来たと思った瞬間、レジ打ちのお姉ちゃんが

「ちゅーっす!」

というので思わず

「ちゅーっす!」

と答えてしまいました。

あ、あほだー!!!

お姉ちゃんは私の前の人にじゃあねと言って、つられて私もじゃあねというという、おかしなおじさんじゃないですか?!前の人は私の知り合いではない。

住み始めの頃、もう半年前か、こんな失敗を4回ぐらいしたと思います。

私は若者に言いたい!こんな失敗をして私はおっさんの今でも成長していますよ。元気出た?

またしてもー!!!

 またしもて実験失敗。今度はサンプルと周辺の水を遮断しているジャケットに小さな穴が開いたのか、周辺の水がサンプル内へ漏れるという現象が起こってしまいました。もうやだよこの実験。

 今日1ヶ月ぶりくらいに受け入れ教員の一人であるミヒャエルと会えました。私が日本からドイツに戻った直後、ミヒャエルはドイツの地質学会に参加してまして、今月に入ってから私が実験で大学にこもっていたので、なかなか研究所に来れず会えずじまいでした。昼にミヒェエルと、実験の失敗の件について議論しまして、もう少し厚いジャケットを使用することにしました。早速実験の技術サポートをしてくれているラルフが、より厚めのジャケットを注文してくれました。すごい助かる。

 ミヒャエルは学会前の地質巡検に参加してすごいよかったと言ってました。アルプスの山の中、2500mほどの標高の場所だったそうです。実はミヒャエルが修士論文でやってたところらしいのですが、まったく別の視点でテクトニクスを議論しており、非常に活発な議論ができたようでした。いいですね、巡検

 で今は、やる気の出ないといっていた、高校生向けの啓蒙書を書いております。あんまり良い結果の研究ではないので面白おかしくするために、地球とは、研究とはこんなもんであるという哲学めいたことを最後に書いて、高校生向けのエールとしたいと思っております。今日明日中には終わらせたい。

 で、途中で止まっている論文執筆をやりつつ、実験再開を待ちたいと思います。

3連休明け、実験再開

 昨日の月曜日、ドイツは東西統合記念の祝日でした。土曜日からの3連休でした。

 土曜日は、日本人の友達と朝からドライブして、北の港町へ鮮魚を求めて行ったところ、タラしかなくて断念。その後、イケアとCITTIマーケットで車があるからこその買い物をしこたましましました。レンタカーを返したところの近くでビールをしこたま飲んで帰りました。酔っ払うと、ドイツ人が英語でめちゃくちゃ話しかけてきます。好奇心旺盛です。

 イケアに行く前にペットボトルを回収にゲストハウスの部屋に戻ったのですが、隣の隣の部屋に新たな住人が引っ越してきたところでした。

「ハロー!」

と英語で会話が始まりました。

私:「どっからきたのー?」

新住人:「日本です。」

私:「私もです。」

となって、そこから日本語。

未来に向かって生き生きと突き進みそうな若者です。超前向きで、頼もしいです。

 

 翌日、昨晩のビールの飲み過ぎで二日酔い気味で、午前中はぼんやり過ごしました。日曜日はお店が閉まらない特別な日曜日とのことで、午後はやっぱり買い物に出かけました。んで、夕方から久々のオペラへ。ユグノー教徒という演目でした。カソリックプロテスタントがいがみ合っているところで、宗派をまたいだ禁断の恋の物語。最後は女性が改宗し、その父親が間違って戦いの中で自分の娘を殺してしまうという悲劇的な終わりです。言葉はフランス語、字幕はドイツ語。とりあえず、事前に予習しておいたあらすじを頼りに、想像を膨らまします。オケはとても上手だと思うのですが、今回の演目ではあまり前面にでなかったように感じました。終演後、結構いい役で出演していた日本人の方と飲んで楽しみました。

 

 昨日の月曜日は錦織の試合と映画三昧でした。昼前に新住人の日本人のインターネット設定を手助けし、昼を部屋で一緒に食べまして、研究について語り合いました。いやー、しっかりしてます。夕方頃に話し終わって、それからネットで映画を見てました。かなりだらっとして充電できました。

 

 で、本日、出勤すると実験機のトラブル対応が済んだとのメールが来ました。明日からまた実験再開です。12月の米国の学会に投稿していた発表の結果が来てまして、今年も口頭発表できることになりました。invitationを受け入れる手続き。ま、さっさと終わります。で、懸案だった自分の論文の再々修正をちょろっと済ませて無事投稿しました。いや、ほんとだらだらやっちゃったわ。それからすっかり忘れていた日本の大学でのプロジェクトで、啓蒙書を作るという話。とっくに締め切りすぎているから、原稿をできるだけ早く出して欲しいとのこと。今、書き始めています。これは想定外すぎてやる気を出すのが難しい・・・。